『華蓮だより』では、心身健康科学科の卒業生、在学生のみなさんへ向けた教員からのメッセージをお届けしていきます。

2020年・8月号

8月号を掲載しますのでご覧ください。8月号は、小岩信義先生、鍵谷方子先生、庄子和夫先生からのメッセージです。

能動的にボーっと過ごすことの大切さ 人間科学部心身健康科学科学科長 小岩信義

 「ボーっ」と考えごとをしているときに、私たちの頭の中がどのような状態になっているかをご存知でしょうか?私の専門となります脳科学、神経科学の進展によって、この一見「何もしていない」ときの脳活動やメンタルヘルスとの関係が明らかになりつつあります。
 私たちの大学には「人間総合科学 心身健康科学研究所」という附属の研究所があります。「ストレスと健康」などのスクーリング授業では、実際に研究所の機材を受講生のみなさんに装着して、ご自身のストレス反応を観察していただいております。コロナ感染のため、ここ数か月は研究所への学生、大学院生の立ち入りが制限されていますが、普段私たちの研究所では脳波やfMRIなどのデータを基に、人間のこころが生まれるしくみを探っています。最近では、数理統計を活用した解析手法が進展することによって、より人間らしい「こころ」の実態に迫ることができるようになってきました。
 従来からおこなってきた、外界刺激に対して私たちの脳がどのような処理をおこなっているのかという認知処理過程を探究することも大変興味深いテーマですが、冒頭にあげたような一見何もしていないときに脳はどのように働いているのか?この点については未知の領域であり、私たちの好奇心を掻き立てます。私たちの大学の研究所でも、意識や注意が外界ではなく、主に自己中心に向かっている際の心的活動を反映した脳内ネットワークの抽出に成功しています。このネットワークは、内側前頭前野、楔前部/後部帯状回などによって構成され、「自己参照」に深くかかわるDefault Mode Network(DMN)と一致していることがわかりました。
 「自己参照(self-reference)」とは、内的な思考過程、つまり内省や過去を振り返ったり、未来のことを予想したりしている心的プロセスです。この状態は、意識や注意の対象が外界に向かっているときとは対極にあり、「自己にとらわれている」状態とも言えます。まさに「ボーっ」と考え事をしているときの脳の状態になりますね。DMNの活動は脳のエネルギー消費の60-80%を占めると考えられており、DMNの過活動は心的疲労やうつ状態にも深く関与すると考えられています。我々は現在、DMNの自己調整機能の向上(enhancement)を目的とした脳機能訓練法(ニューロメディテーション)を開発し、質問紙や他の生体信号(心電図、皮膚温)、バイオマーカー(尿、唾液、血液中の生理指標)などのヘルスデータとあわせることで、個人のメンタルヘルスマネジメントに応用する可能性を探っています。
 いかに能動的に「ボーっ」と生きるか? なんだか変な表現ですが、私たちが幸せに生きてゆくために、このことをよく考えてみることには大切な意味があるようです。自分の外に幸せを求める生き方でなく、自分の内面を探究して幸せになるヒントを考えていくこと、さらに心身健康科学を学ぶみなさんは、DMNと幸福感や心身の健康との関係について現在の科学的知見を整理し、この脳内ネットワークを自己調整する方法の実態や可能性などについて考えみるとは、大切な意味をもっているようです。みなさんも総合演習のテーマとして、「自己」を感じることは、健康にとってどのような意味をもっているのかを考えてみませんか?

心身健康科学の学びを活かして「新しい生活様式」について考える
人間科学部心身健康科学科 鍵谷方子

 日常生活様式が一変しました.大小様々の多くの課題・懸念がありますが,運動不足も話題にのぼる事の一つです.私自身も運動不足を感じている一人で,「新しい日常」の中で,新しいライフスタイルの構築をしている最中です.とはいえ,緊急事態宣言が解除されて以降の仕事に関連した部分では,蜜を避けるためにエレベーターやエスカレーターの使用が大幅に減ったり,1駅くらいなら歩くようになったり等で全体量としては意外と変化ないようです.プライベートの部分での活動量を増やすスタイルの模索中です.
 身体不活動は,生活習慣病の発症の危険因子であるばかりでなく,死亡リスクとしても,日本では第3位に挙げられています.もともと,私たちは便利な生活の中で運動不足が言われていましたが,それは大人だけではなく,子どもにも及んでいます.昨年発表されたWHOの調査1)によると,世界の青少年の5人に4人は運動不足とのことで(146カ国,11~17歳の生徒160万人,2001~2016調査),早期の対策が必要とされています.「新しい生活様式」が日常化する中,活動量を増やす取り組みが,これまで以上に求められていると思われます.
 運動の実施や活動量を増やすことの効用としては分子レベル,器官レベル,個体レベル,集団レベルの様々な面で示されています.本学で学ぶ私たちに関心が高い心身両面に対する効果についてもよく知られています.健康寿命の延伸の観点からは,介護が必要となった主な原因2)の上位を占める大部分(認知症,脳血管疾患,骨折・転倒,関節疾患など)は運動の有効性が示されています3).
 私が以前より関心をもっているのは,特に脳への効果です.脳に酸素や栄養を運ぶ血流は,脳が正常に機能を発揮する上でとても重要です.数分間血流が途絶えただけで脳の神経細胞には不可逆的な障害が起こります.そして,脳の中でも思考や言語,認識,判断,学習などの人間が人間らしさを発揮する上で重要な高次脳機能を司る大脳皮質や海馬の神経細胞は,特に血流不足に脆弱と言われています.
 その大脳皮質や海馬の血流が歩行によって増加することが若いラットを使った実験で明らかにされています4).大脳皮質や海馬の血流を測定しながらラットを30秒間歩かせると,歩行中に大脳皮質や海馬全体で血流が増加します.歩く速度は,普通でも,普通の1/2にした場合でも,2倍にした場合でも血流が増加することが海馬で確かめられています.つまり特別に早く歩かなくとも散歩程度のゆっくりとした歩行でもよいようです.さらに海馬についての実験は,老齢ラット(ヒトで約70歳に相当)でも行われていますが,老齢ラットにおいても若いラットと同様に血流が増加することが明らかにされています4).
 ところで皆さんは,「心身健康アドバイザー」という称号をご存知ですか?本学と関連する日本心身健康科学会が認定する称号で,本学でみなさまが学ばれている必修科目等が所定カリキュラム5)6)となっているため,取得を目指しやすい称号です.本稿の余談ではありますが,大学の学びを称号取得へと結びつけることは卒業後の活躍にも繋がりますので,お勧めしたいところです.日本心身健康科学会では,心身健康アドバイザーの方に向けた講習会が年2回開催されています.来月9月13日(日)にオンライン開催される講習会のテーマは,『動きの中のこころとからだ』とのことです.運動不足が懸念される今にぴったりです.既に心身健康アドバイザーの学生の皆さんは,ぜひご参加ください.

1)Guthold R et al: Lancet Child Adolesc Health 4(1), 23-35, 2020.
2)厚生労働省:平成30年版高齢社会白書.2018.
3)澤田泰弘:実験医学 37(8), 1220-29. 2019
4)堀田晴美,内田さえ:MB Med Reha 140: 13-20, 2009.
5)人間総合科学大学:学生生活の手引.p39-40
6)日本心身健康科学会ホームページ:https://jshas.human.ac.jp/
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※「心身健康アドバイザー」称号取得にご興味をお持ちの方へ:認定試験が2020年度は9月5日・6日に実施されます.申込期限は8月20日です.受講資格・申込方法など,詳しくはこちら

新型コロナウイルス感染症の時代と日々の生活について思うこと
人間科学部心身健康科学科 庄子和夫

 長く鬱陶しい梅雨が明けたと思ったら、いきなりの猛烈な暑さの日々が続いて居ていますが、皆さんはいかがお過ごしですか。このような気候の中、今もって相変わらず新型コロナウィルス蔓延の状況は続いており収束の様子はみられません。東京をはじめ各地方都市でも多くの感染者の情報が日々更新されています。この新型コロナウィルスに関しては情報が錯綜し、デマも多く流れました。例えば、沢山の熱い液体(コーヒー、お茶など)を飲むなどです。これらの効果には科学的な根拠はなく、真偽は定かではありません。また新型コロナ感染時に解熱薬としてイブプロフェンの服用は避けアセトアミノフェンの服用が勧められたことがありました。WHOもそれを推奨しましたが、後に取り下げています。新型コロナに関しては様々な情報が交錯していますが、私たちはその中から何が正しいのかを見極めて行く必要があります。やはり情報リテラシーを身につけて科学的な根拠がある情報を取捨選択する必要があります。これからも様々な情報が出てくると思いますが、根拠のない情報に惑わされることの無いよう日々を大切に生活していきたいものです。


2020年・6月号

6月号を掲載しますのでご覧ください。6月号は、鈴木はる江先生、三橋真人先生、鮫島有理先生からのメッセージです。

通信制大学で学ぶ特徴を活用しよう 人間科学部学部長 鈴木はる江

 2020年の新年度は,新型コロナウィルス感染予防対策で全国の大学において入学式中止,授業の開始の遅れ,オンライン授業への変更と対応に追われてきました.人間総合科学大学は2000年に通信制の私立大学として人間科学部心身健康科学科が開学し,その後は通学制の学部学科を増設して現在に至っています.通信制の心身健康科学科は,多彩なテキスト履修やオンライン授業のコンテンツを揃え,インターネットでの試験やレポート提出と,全て自宅で効率的に学修できる仕組みを整えてきました.
 こうした通信制の学習はご自身のペースでいつでも学修できるメリットがある一方で,学生の皆さんは孤立しがちです.本学では,学生がいつでも担任や科目担当教員へポータルサイトやTV会議システムを介して質問・相談できる仕組みも整え,学生各人の学習をサポートしています.このコロナ禍の中,多くの学生さんがこの学習システムを活かして着々と学習を進めている様子がポータルサイトでのやり取りから伺え,教員として嬉しく思うとともに学生さんの学習意欲に励まされております.このような事態だからこそ,通信制大学の特徴を生かした学修の場を滞りなく提供できていることを再確認し,さらなる教育の充実化に取り組んで行こうと気持ちを新たにしているところです.
 この困難な状況の中,インターネットを活用したコミュニケーションやテレワークが広く推進されています.人間総合科学大学の教職員は,通信制教育の重要性を改めて再認識し,さらなるカリキュラムやシステムの充実化を図っていかなければと一丸となって取り組んでいる状況です.学生の皆さんと一緒にこの状況を乗り切っていきたいと切に思うこのごろです.

よろしくお願いいたします! 人間科学部心身健康科学科 三橋真人

 今年度より、人間総合科学大学で教鞭をとることになりました、三橋真人と申します。よろしくお願い致します。
 早速ですが、私の研究テーマをちょっとだけ紹介します。私の研究テーマは「笑いと免疫力の関係」です。実は、「笑い」には免疫力を高める効用があると言われている。「笑い」がストレスを解消し、病気を遠ざけることが様々な研究で明らかになりつつあります。免疫力を高めることから、生活習慣病の予防にも役立つのではないかということで、注目を集めています。また、わが国の抱えている課題は少子高齢化ですね。その中でも、高齢化にともなう医療費の増大に、国は頭を抱えています。
 現在の笑い研究では、性別によっても「笑い」には違いがあり、「声を出してよく笑う」を性別でみると、男性40%、女性60%で、女性のほうがよく笑うことが分かっています。 
 さらに、年齢とともにストレスが増し、笑えなくなると指摘されています。「よく笑う」は30代が65%、40代が50%、50代が45%と徐々に「笑い」が減っていくのです。
 なぜ年齢を重ねるにつれて笑わなくなるのかは、ストレス説が有力です。年齢とともにストレスが増え、笑えなくなると考えられています。ただし、人生で最もストレスが多いのは30代、40代と考えられるので、60代、70代のほうが「笑い」の回数が少ないことから、ストレス以外の要因も大きいのではないかとの見解もあります。ストレス以外の要因について着目する見解としては、脳機能が「笑い」と関連しているという説があります。ただ、「笑い」により脳機能が高まるのか、脳の認識機能が高いことから「笑い」が促されるのか、どちらが一体先なのかということについては、まだ解明されていません。
 「笑い」は、心の健康にも身体の健康にも有効性を持ちます。ヘルスリテラシーの効果を高めるために、笑い研究を進めることはわが国の医療費抑制につながるかもしれません。
 そんな研究をしています。興味のある方は一緒に学びませんか?

10年後、20年後はどんな自分ですか? 人間科学部心身健康科学科 鮫島有理

 2020年度は、世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が猛威を振るい、大変な幕開けとなりました。そのため、授業開始が遅れ、大学、大学院の授業もオンライン授業に変更して実施しています。

 私自身、獣医学科に入学・卒業以来、いくつもの大学、大学院に在籍してきましたが、大学生と大学院生の通算在籍期間が20年以上になることに気がつきました。社会人になってからも大学、大学院に通っていたので、「そんなに大学に行くなんて勉強が好きなんですね」と言われることが多くありますが、「勉強」という行為自体が特に好きだったわけではなく、興味のあることをもっと知りたい、深く知りたいと思った結果なのだと思います。そのように、好奇心の赴くまま、獣医学、臨床心理学、仏教学と分野の違う世界をのぞいてきました。
 その傾向は臨床心理士として心理臨床に携わってからも変わりなく、教育、医療、産業の領域の様々な職場で臨床経験を積ませていただくことになりました。そのおかげで老若男女の幅広い世代の方の様々な悩み、苦悩の一端を知ることができました。それは、自分自身の経験になっただけでなく、心理臨床家としてどのような方が相談にいらしても対応できるという自信につながったように思います。
 現在、世界では未曾有の事態が起きています。新型コロナウイルスと言われる未知のウイルスは未だ治療法も確立しておらず、ワクチンも作られていません。そのような感染症が世界中で感染拡大し、多くの死者、重傷者を出していますが、過去にもわが国では多くの死傷者を出した災害が起きています。阪神淡路大震災(1995年1月17日)の際は、多くの死傷者が出て、PTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)という言葉が世に知られるようになると同時に、臨床心理士が活躍したことでも有名になりました。当時、私は「臨床心理士」の存在すら知りませんでしたが、そんな私が、東日本大震災(2011年3月11日)が起きた時には、臨床心理士となり、緊急派遣スクールカウンセラーとして被災地に派遣され、支援にあたることになりました。本当に人生というのは不思議なものだと思います。

 本学で学ぼうと思われた方、そして、このページを読まれている方は、きっと好奇心が旺盛で、やる気がある方でしょう。本学における「こころ」、「からだ」、「文化」を切り口とした様々な科目を学ぶことが、10年後、20年後に自分でも想像すらできないような未来への一歩になるかもしれません。外に目を向けると、先が見えず不安になることが多くあると思いますが、自分の内面に目を向け、知見を広げることはいつでも可能です。このような時だからこそ、自分の知りたいことや興味のあることを、好きなように、好きなだけ、打ち込んでみてはいかがでしょうか。教職員一同、皆さんの学修を応援しています。

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