新型インフルエンザ流行と食・健康の管理

インフルエンザ・パンデミックという言葉をご存知でしょうか?今回、白石弘美先生が食との係わりで、分かりやすく説明をして下さいました。白石先生は管理栄養士として、長年、東京慈恵会医科大学附属病院栄養部にて、生活習慣病の栄養指導や食事管理に従事され、また同大の総合母子健康医療センターでは、母子や子供の栄養指導の分野で草分け的存在として、「食育」や女性と栄養の関わりに取り組んで来られました。昨年(平成20年4月)、本学に教授として招聘され、若き管理栄養士の養成に、またご研究面でも素晴らしいご活躍をされています。

2009年、メキシコから広まった「新型インフルエンザ」の世界的な流行により、日本でも海外渡航者を中心に、多くの感染患者が発生しました。現在でも、その患者は増え続けており、季節がこれから冬になると一層、感染患者が増えるのではないかと心配されています。一方、WHO(世界保健機構)は2009年6月11日に、新型インフルエンザの警戒水準(フェーズ)を最高の「6」に引きあげたと発表しました。


 このような状況の下で、わが国でも「新型インフルエンザ」が大流行するのではないかとの危機感が高まっています。どのようにその危機を回避すればよいか。「パンデミック・爆発的大流行から生き残るために(新潮新書)」の中で、著者は「大流行の期間中は食料の買出しも行えないことを考慮して、最低2週間分の食料を備蓄しなければならず、平常時からその準備が必須である。」と述べています。しかし、現在、わが国の大規模施設(病院など)では、危機(食中毒・地震対策)に備えた給食管理として、一般に3日間の“食の危機管理”が行なわれているに過ぎません。また、2008年の“食の危機管理”調査では「市町村の防災計画の中に、行政として備蓄する水や、食糧の具体的な品目や備蓄量が示されているところは、45.3%に過ぎなかった。」と報告されています。このような大規模施設や、市町村の不十分な防災計画を受けて、私たちの家庭でも、平常時から、パンデミック*時の危機管理に備えた食と健康管理への対策が必要ではないかと考えています。


*注)パンデミック(Pandemic)とは、エイズや今回の新型インフルエンザのように、世界的な大流行および、非常に多くの数の感染者や患者を発生する流行を意味する言葉です。WHOによる警戒水準、フェーズ 6は、“インフルエンザ・パンデミック”(インフルエンザの世界的大流行)といえます。


普段から考えておく食・健康の管理

 新型インフルエンザ災害が発生した場合、地域社会での被害を最小限に食い止め、自分の身体を守り、もし感染しても速やかな健康の回復を図って、安心して生活のできる危機管理のために、日頃からの対策(計画)が必要でしょう。インフルエンザ・パンデミックの予防策の第一義は“外出を避ける”ことですから、日常食品などの買出しをしないで、備蓄食材や冷凍食品を利用して食事を用意しましょう。そのためには、各家庭で最低限の食品備蓄を日頃から考えておくことが必要です。


 そこで「新型インフルエンザ大流行と食・健康の管理」というテーマにそって、一般家庭における、1週間分の献立を作成するために、次のことを考えてみました。

① 日常の食生活の中でローテーションできる食品を使用する。

② 日持ちする食材を使用し、調理方法を簡便にする。

③ 摂取するたんぱく源としては、出来得る限り生鮮食材を使用し、長期にわたる場合にはストックのきく缶詰等を使用する。

④ 果物に関しても、出来得る限り生鮮食材を使用し、長期にわたる場合にはストックのきく缶詰等を使用する。

⑤ 調味料は日常生活で準備されているもので良く、使用量を切らさないように注意する。


 新型インフルエンザ大流行の期間中は、なるべく食料の買出しをしないですむように、最低2週間分の食料を備蓄しておきましょう。市販されている備蓄セット食品やデリバリー等の利用もありますが、それらは一般的に高額になることは間違いありません。そこで自分で作成した1週間分の献立を基にして、2週間分のサイクルメニューとして使用し、普段も使える食材を備蓄しておくのは如何でしょうか。


 新型インフルエンザ感染により、学級閉鎖の措置が取られると、「クラス全員が感染者」のように思われがちです。また、低学年になるほど「初めに感染したのは誰?」と感染犯人探しが始まり、「うわさ」などの被害から、心理的ケアが必要になる場合もあると言われています。感染者の心と身体のQOLを考えるとき、パンデミック時には外出を控えた危機管理が必要でしょう。そのために各家庭における準備しやすい食品による食糧の備蓄、平常時から最低限の生活必需品の備蓄など、外出による感染を回避するための対策が必要です。また食に関しては、計画した献立に基づき、備蓄食品のリスト化をしておくと、使い忘れなどの無駄がはぶけ経済的です。そして感染拡大を予防するために必要なマスクなどの衛生用品の備蓄リストも、忘れずに作成しておきましょう。行政サイドでは、各家庭で平常時から準備しやすい食品や、衛生用品の品目や備蓄量を具体的に示したマニュアルの作成が必要でしょう。それらが普及していないと、実際に危機が起きたときの対応が遅れ、人々は買い出しに走り、社会はパニック状態になって一層の混乱に陥る可能性があります。そのような事態に陥らないためにも、私どもは本学での「給食経営管理」の授業とおして混乱回避の方策や事前準備のマニュアルなども研究しています。この冬期にも大流行が想定される「新型インフルエンザ」対策について“備えあれば憂いなし”の言葉どおり、各家庭・個人で、日頃から心がけておくことが大切ではないでしょうか。


執筆担当:教授 白石弘美先生

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