トップページ > 学生生活 > キャンパスだより > 心と身体の健康メモ > 第13話:「IT社会と労働者の抱えるストレス―テクノ依存症とテクノ不安症」
今回のご担当は、苅部ひとみ先生です。本学人間科学科では、公害と環境問題、住まいと環境、生命科学概論、産業心理学など。健康栄養学科では、生命科学概論、社会環境と健康、生活習慣と健康、病期の成り立ち、精神保健、臨床栄養学概論、臨床栄養学各論など、単独、または分担で多くの講義を受け持っておられます。ご専門は肝疾患、および産業医学で、本学の校医としても御活躍中です。現代社会の心の病気「テクノストレス症候群」について、お話をいただきました。
昨今のわが国では、コンピュータの導入により、企業内外のコミュニケーションのあり方が急速に変化してきている。多忙な労働者にとっての利点は、①コミュニケーションに要する時間の削減、②紙代の節減、③省力化、④効率化などであり、伝達・打ち合わせもメールで済ませている。この他インターネットを利用してのテレビ会議の普及、社長から社員への一斉メールなど、枚挙に暇がない。
現在、労働者は1人に1台のパソコンを使用するのが常態となり、1日の労働時間のほとんどをVDT作業に費やす労働形態となった。このとき、コンピュータ作業者にみられる特異的な精神症状を「テクノストレス症候群」といい、テクノ不安症、テクノ依存症に分類される。
「テクノ不安症」とは、コンピュータの操作あるいはコンピュータ自体への不安・恐怖反応により惹起(じゃっき)され、不安、抑うつ状態、頭痛、嘔気などの身体症状も認められ、出社できない状態に陥る労働者も少なくない。このような症状(適応障害)は新入社員、途中採用者などによくみられる。予防対策としてはコンピュータリテラシー教育を十分にすることが有効である。コンピュータリテラシー教育とは、コンピュータに知識のない人や不得手な人に対しての「コンピュータ教育」のことであり、技術面、応用面など広範囲に及ぶ。企業では特に新人や中途採用者に対して行なわれている。
「テクノ依存症」とは、コンピュータにのめりこむ状態をいい、効率・スピードへの拘り、思いやりの欠如、事実絶対主義、情緒に乏しい、あいまいさに対する嫌悪などが性格的特徴である。症状が激しくなると反社会的行動に走る場合もみられる。また、配置転換などでコンピュータから離れると精神疾患、心身症、神経症状態に陥る場合があるとの報告もある。予防対策はワークライフバランスをよくとり、仕事から完全に離れる時間を設けることが大切という。しかし、重症例には認知行動療法(注1)や家族療法(注2)が効果的とされている。
(注1) 認知行動療法とは、たとえば、喫煙という悪しき習慣を禁煙というよい習慣に「変容」させるとき、この方法が用いられる。生活習慣病対策(特に肥満)には欠かせない治療方法である。
1)悪しき習慣であることを「認知」させる。
2)認知後、「では、己はどうすべきか」という行動を起こさせる。
3)新たな行動を「獲得」せしめ、それを正しい習慣として定着させる。
こうした流れで実施している。食事療法もふくまれ(食習慣)、管理栄養士には必要なスキルの1つである。
(注2) 家族療法:本学では島田先生のご専門ですが、患者の症状(たとえば拒食症や人格障害)の原因に「家族のゆがんだ関係」があるとき、家族の現実を認知させ、疾病との因果関係を共有させ、おもに交流分析というカウンセリング技法を用いて(フロイトの精神分析の流れ)、あるべき姿にもってゆくことで、患者の精神の安定~改善を目指す、というもの。昨今の「母子カプセル」、「モンスターペアレンツ」などに原因がある病態に適応できる。
以上、情報化の功罪は洋の東西を問わない。コンピュータ犯罪も含め、今までの常識では予測のつかない現象を生じる可能性もあり、私たちはより視野を広くもち、状況を柔軟かつ的確に判断すべきであろう。
執筆担当:教授 苅部ひとみ先生