トップページ > 学生生活 > キャンパスだより > 心と身体の健康メモ > 第11話:アンチエイジングの考え方
今回は近藤昊先生にご登場いただきました。ご専門は老年学であり、長年東京都の老人研究所にお務めでした。本学では、大学院心身健康科学研究科において「長寿科学」を、健康栄養学科において「基礎生物学」、「老化制御学」、「細胞と遺伝子」を教えておられます。物腰柔らかな近藤先生による、きっちり科学的なアンチエイジングにつてのお話をお楽しみください。
アンチエイジング(Anti-ageing)とは、日本語に直せば「抗加齢」あるいは「抗老化」のことです。現在、私たちはアンチエイジングという言葉をよく耳にするようになりました。それは老化のメカニズム、あるいは老化の原因が少しずつ分かってきたことや、高齢者の増加、そして何よりも今日の健康ブームや、私たちのいつまでも若くいたいという願望などが重なって、このようなブームになったものと思います。
アンチエイジングという言葉の範囲は、今でも少しずつ広がっており、混沌としているのですが、それは健康法から医療行為まで、あるいは老化を遅らせることから、若返らせることまで、なんでもアンチエイジングと呼ぶからです。健康法では食事(サプリメントを含む)、運動、文化・社会活動などが、医療行為ではホルモン補充療法、肌のケアや若返り医療など、数え切れないほどのアンチエイジングが世の中に出回っています。このようなアンチエイジングの広がりの中で、アンチエイジングをどのようにとらえたらよいのか、そして何が本当にアンチエイジングに有効なのかなど、一緒に考えてみましょう。
その話を始める前に、まずエイジング(老化)で分かっていることを整理して、それからアンチエイジングについて考えてみましょう。
エイジングすなわち老化は、人の一生を誕生、成長、成熟、老化、死、と区分するとき、成熟以降に現れる現象です。人の最長寿命はおよそ120歳で、この限界を超えることは難しいのですが、この限界寿命を決めるものとして、人の生涯で使用できるエネルギーの総和(グラム体重あたり約800キロカロリー)と、身体のしくみ(体細胞の有限分裂回数と脳神経細胞の分裂終了)が有力視されています。これらを人が活動することで消費すると、老化として現れるのです。この活動に利用するエネルギーは酸素を使って作るため、副産物として有害な活性酸素が産生されます(使用酸素の約2%が活性酸素になると見積もられている)。活性酸素が体の中の核酸や、たんぱく質など、生体高分子に作用し、酸化DNA、酸化タンパク質、あるいは過酸化脂質などをつくることで、細胞や組織に損傷を与え、多くの体細胞の分裂寿命の消費(テロメア短縮)や、神経細胞数の減数を起こし、その結果として身体機能の低下が誘起される。すなわち老化が起こると考えられています。
これらは身体の老化についてですが、人は身体だけから成り立っているのではなく自我を持つ存在、すなわち精神的な存在であり、老化はその心身の両者によって進行すると考えられています。精神部分である長期間の抑うつ状態は、生活習慣病(特に心臓病)のリスク因子で死亡率を高め、最近の報告では、活性酸素を産生し、老化(テロメア短縮)を促進することが明らかにされています。一方、この反対に主観的健康感の高い人は、長寿であるといわれています。加えて、仕事や趣味などの文化的活動、あるいはボランティアなどの社会的活動をすることが、健康長寿につながるという報告もあります。
人の老化は身体的、精神的な面に表れるのですが、老化の進行は文化的・社会的な要因で変わることが明らかになってきました。それでは、アンチエイジングのために、どうしたらよいかを考えてみましょう。これまで述べてきたことを総合すると、私たちが一生のうちに使うことのできるエネルギーや、身体を構成する細胞の分裂回数は有限なのですから、若いときから、それらを有効に活用するために、規則正しい生活を心がけることが大切です。そして、老化の原因や、促進につながる動脈硬化などを引き起こす肥満や、病気(生活習慣病、うつ病など)を予防することも重要なことでしょう。そのためには、抗酸化食品の摂取を含め、適正でバランスのよい食事、適度の運動、休養、そしてストレスをためず、脳を活性化させる文化的・社会的活動に参加することなどがアンチエイジングのために重要なことです。
このように、アンチエイジングは若い人にも年をとった人にもいつまでも健康でいられるために役立つものです。つまりアンチエイジングは、単に若返ることや老化を遅らせるということでなく、心身の健康を保ち、よりよく生きるための人間の知恵であると考えたらよいと思うが、いかがであろうか。
執筆担当:教授 近藤昊先生